古物商のインボイス「古物商特例」とは?
一般の人から仕入れてもインボイスなしで仕入税額控除できる条件

1. 古物商がインボイスで困る理由
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、消費税の仕入税額控除——売上にかかる消費税から、仕入れで払った消費税を差し引く仕組み——を受けるには、原則として仕入先からもらったインボイス(適格請求書)の保存が必要です。
ところが古物商の仕入先の多くは一般のお客様。事業者ではないのでインボイスを発行できません。原則どおりなら、買取で払った消費税は差し引けず、古物商だけが不利になります。 この不均衡をなくすために置かれているのが古物商特例です(国税庁の用語では「古物商等特例」)。
2. 古物商特例の4つの条件
消費税法第30条第7項・同法施行令第49条第1項第1号ハ(1)にもとづき、次の条件をすべて満たす仕入れは、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
古物営業法の許可を受けた古物商であること
許可を取っていない人(「無許可でせどり」など)はこの特例を使えません。許可そのものが権利の入口です。
仕入先が「適格請求書発行事業者以外の者」であること
一般の個人、免税事業者、インボイス登録をしていない事業者など。相手がインボイス発行事業者なら、普通にインボイスをもらって保存します。
仕入れた古物が「棚卸資産」(=売るための商品)であること
自分の店で使う備品・消耗品・固定資産として買った中古品は対象外。その場合はインボイスが必要です。
一定の事項を記載した帳簿を保存していること
次の章で説明します。古物台帳+総勘定元帳等の組み合わせで満たせます。
国税庁Q&A問106には、中古車販売業の例で「消費者からの仕入れは一定の事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除が認められる」と明記されています。 同じ仕組みは質屋・宅地建物取引業者・再生資源卸売業者などにもあり、2026年9月1日以後は金属盗対策法の届出をした特定金属くず買受業者にも広がります。
3. 帳簿に何を書くか——古物台帳がほぼそのまま使える
帳簿のみの保存で控除を受ける場合、帳簿には通常の記載事項に加えて次の5つが必要です(国税庁Q&A問110)。
| 帳簿に必要な事項 | 古物台帳に | メモ |
|---|---|---|
| ① 相手方の氏名又は名称・住所又は所在地 | ✓ ある | 古物台帳の「相手方の住所・氏名」そのもの。古物営業法上、相手方の記載を要しない取引(1万円未満の一般品目など)では、帳簿への「相手方の氏名・住所」の記載だけが不要になります(令和5年国税庁告示第26号・国税庁Q&A問110)。取引年月日・資産の内容・支払対価の額・「古物商特例」の旨は、この場合も記載が必要です |
| ② 仕入れを行った年月日 | ✓ ある | 取引年月日 |
| ③ 仕入れた資産の内容 | ✓ ある | 品目・数量・特徴 |
| ④ 支払った対価の額 | ✓ ある | 代価 |
| ⑤ 帳簿のみの保存で控除が認められる仕入れに該当する旨 | ✗ ない | 例:「古物商特例」と書く。総勘定元帳や仕入帳の摘要欄に記載すればよい |
つまり①〜④は、古物営業法にもとづいて付けている古物台帳にすでに書いてあります。 国税庁Q&Aは、「古物台帳と、⑤を記載した帳簿(総勘定元帳等)を合わせて保存することで帳簿の保存要件を満たせる」と整理しています。 古物台帳をきちんと付けている古物商ほど、インボイス対応は楽になる仕組みです。
4. 適用できないケース・間違えやすい点
相手がインボイス発行事業者だった
特例は使えません。インボイスの交付を受けて保存します。買取時に「事業者ですか?登録番号はありますか?」を確認し、買取申込書に記録しておくのが実務的です。
店で使う備品・消耗品・固定資産として買った中古品
棚卸資産ではないので対象外。インボイスがなければ原則控除できません。
免税購入品(免税店で消費税が免除された物品)と知りながら仕入れた
2024年4月1日以後、古物商特例の有無にかかわらず仕入税額控除の対象外です(国税庁Q&A問106注2)。
古物台帳に相手方を書かなくてよい取引(1万円未満の一般品目など)
帳簿への住所・氏名の記載も不要です。ただし書籍・ゲームソフト・光ディスク・自動二輪車等の例外品目や、2025年10月に追加された金属4品目は1万円未満でも古物台帳に記載が必要なので、帳簿にも記載します。
そもそも免税事業者(課税売上1,000万円以下など)
消費税を納めていないので、仕入税額控除も古物商特例も関係ありません。インボイス発行事業者になるかどうかは、取引先の事情を含めた別の判断です。登録して課税事業者になった場合は、令和8年分(令和8年9月30日を含む課税期間)まで、納める消費税を売上の消費税額の2割にできる「2割特例」があります(平成28年改正法附則第51条の2)。売り先が事業者中心かどうかで損得が変わるので、登録するかは個別の判断です。
4-2. 古物商特例が使えなくても「少額特例」で救われる場合がある
上の「適用できないケース」に当たっても、1回の仕入れが税込1万円未満なら、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられる別の特例があります。 消費税の「少額特例」(国税庁 タックスアンサーNo.6496・インボイスQ&A問111)です。古物商特例と違って、古物商許可の有無も、棚卸資産(商品)かどうかも問いません。
- 基準期間(前々年)の課税売上高が1億円以下、または特定期間(前年1〜6月)の課税売上高が5,000万円以下の事業者であること
- 令和5年10月1日〜令和11年(2029年)9月30日までの間に行う課税仕入れであること(期限つきの経過措置)
- 1回の取引の支払対価が税込1万円未満であること(1商品ごとではなく、1回の取引の合計額で判定)
この場合、帳簿に通常の記載事項(相手方・年月日・内容・対価)を書いて保存すればよく、⑤の「特例に該当する旨」の記載は不要です(Q&A問111)。1万円未満かどうかは1回の取引の合計額で見るので、5,000円と7,000円の品を同時に買えば12,000円の取引として対象外です(Q&A問112)。 例えば店で使う備品を1万円未満で買った場合や、相手が事業者かどうか分からない小口の仕入れは、古物商特例ではなくこちらで整理できます。
ただし少額特例は2029年9月30日で終わる経過措置です。1万円以上の仕入れや2029年10月以降は、これまでどおり古物商特例の帳簿記載(⑤を含む)で対応してください。
5. カンタン台帳で記録している場合
カンタン台帳は古物営業法の記載事項(取引年月日・品目と数量・特徴・相手方の住所・氏名・職業・年齢・確認方法・代価)を取引ごとに記録します。つまり古物商特例の帳簿記載事項①〜④は、台帳を付けていれば揃います。 あとは会計ソフト側の仕入帳・総勘定元帳の摘要に「古物商特例」と書き、台帳データを7年分消さずに残しておくだけです(CSVエクスポートで手元にも保存できます)。
ただし、相手が事業者かどうか(インボイス発行事業者か)の確認と記録は古物営業法の義務ではないため、買取申込書に確認欄を設けるなど、運用で補ってください。
よくある質問(Q&A)
Q. フリマアプリの匿名配送で仕入れた場合も特例を使えますか?
A. 帳簿に「相手方の氏名又は名称・住所又は所在地」を書く必要があるため、相手方の情報が分からない取引では要件を満たせないのが条文の建て付けです(古物台帳に住所氏名を書かなくてよい1万円未満の一般品目を除く)。国税庁のはっきりした資料は見当たらないので、該当する仕入れが多い方は税理士か税務署に確認してください。
Q. 古物商特例の帳簿は、古物台帳とは別に作らないといけませんか?
A. いいえ。国税庁Q&Aは「古物台帳と、特例に該当する旨(⑤)を記載した帳簿(総勘定元帳等)を合わせて保存」で足りるとしています。新しい帳簿を1冊増やす必要はありません。
Q. 「古物商特例」という言葉は帳簿にそのまま書けばいいですか?
A. はい。帳簿のみの保存で控除が認められるいずれの仕入れに該当するかが分かる記載であればよく、国税庁の例示(「3万円未満の鉄道料金」「自販機」など)と同様に「古物商特例」と摘要に書く運用が一般的です。
Q. 事業者から買い取るときはどうすればいいですか?
A. 相手がインボイス発行事業者なら、インボイス(登録番号・税率ごとの税額などが書かれた領収書や買取計算書)の交付を受けて保存します。相手が発行事業者でない事業者(免税事業者など)なら古物商特例の対象です。
Q. 簡易課税を選ぶ場合、古物の販売はどの事業区分になりますか?
A. 仕入れた古物を性質・形状を変えずに一般の消費者に売れば第2種事業(みなし仕入率80%)、事業者に売れば第1種事業(90%)、修理・加工して性質や形状を変えて売れば第3種事業(70%)、修理代など加工賃を受け取る仕事は第4種事業(60%)です。判定は原則として取引ごとに行うので、店頭販売と業者販売の両方があるなら売上を区分して記録しておきます(国税庁 タックスアンサーNo.6509)。
Q. 無許可でせどりをしている人も使えますか?
A. 使えません。古物営業法の許可を受けた古物商であることが第一の条件です。許可の要否は「せどり・転売で古物商許可は必要?」の記事をご覧ください。
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出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」問106(古物商等の古物の買取り等)・問110(帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の帳簿への一定の記載事項)・問111(少額特例)・問112(1万円未満の判定単位)いずれも令和8年5月改訂版(2026年8月22日確認)。問106(PDF)/問110(PDF)